2011年 04月 07日
阪神大震災はじめ、これまでの各地震災仮設住宅の教訓から 応急仮設住宅・復興住宅への提言 2011.04.05 by丸谷博男 被災者の生活の場となる応急仮設住宅は、迅速かつ簡易に建てられることが求められるが、一方では長期の滞在が予測されるため、居住性を無視しては建てられないという事実がある。 また、既存の生活圏、地域共同体としての明日の姿探しへの参画、生活に必要な人間互助関係という課題に対しても応えて行かなければなりません。そこで、以下のような課題と提言をいたします。 1.これまでの震災における応急仮設住宅と各々の特徴 既に着手している状況であるが、ここで応急仮設住宅を改めて捉え直す必要がある。この16年間の歩みを見るだけでも、それなりの工夫と改善が行われて来た。 (1)阪神淡路大震災(95年1月) 「一般型公的仮設住宅」の専用部分は、8坪(26.4㎡)、4.5帖2間、台所、風呂、便所で構成、全て2Kの同一タイプ。建設費280万円(解体共360万円・県の発表)、立地は神戸市内激震6区内の全壊・全焼戸数120,069に対して同区内にわずか5,161戸(6.8%)、他は遠い被災地郊外や離島に建設。居住性能は、断熱性・遮音性に劣り、庇、エアコン、スロープも無く、洗濯機置場も戸外(後に庇、エアコン、スロープ設置)で、共用部分も雨水排水不備、外灯無し。被災者のケア的集会所もなかった。 「ケア付公的仮設住宅」では、芦屋56戸、尼崎48戸、西宮163戸、宝塚27戸、計294戸供給され、1棟10~14室からなる。専用部分は、6帖1間+押入+便所。共用部分に台所、居間・食堂、浴場、生活援助員24時間常駐のスタッフルーム6帖が隣接、要援護者の介護や緊急時の対応だけでなく情報提供や生活相談がされた。児玉善郎氏(当時日本福祉大助教授)の調査によれば、その満足度は70%で、24時間常駐に安心と高く評価された。 同系タイプの「地域型公的仮設住宅」は、神戸市で1500戸供給、1棟8~24室。専用部分は、1間+押入(単身用4.5帖、2人用6帖)で、台所、浴室、便所まで共用。支援体制は50室に一人の生活援助員で9時~17時まで、相談室50戸毎で、同調査によればその満足度39.6%であった。 更に民間賃貸住宅空家の借上げは、139戸と少なかったが、ハード面の居住性能は不明だが、用地難対策として有効に働いた。 最後に特筆すべきは「自力仮設住宅」で、塩崎賢明神戸大教授の調査によれば、神戸市内で住居系3551棟3859戸が自費で建てられた。規模は60㎡以下が過半数、店舗・工場併用の100㎡以上も1割近くある。費用は約半数が800万円未満、構造タイプはコンテナハウス、スーパーハウス、モービルハウス、プレハブなど多様である。自己所有地に建設することで人がまちに住み地域も活性化する、住宅復興は勿論、まちの復興への早道でもある。 (2)雲仙普賢岳噴火災害(91年6月) 仮設住宅は、1K、2K、3Kの型別供給(約7割2K、平均29.16㎡約9坪)で、風呂、便所、クーラー・テレビ・冷蔵庫・洗濯機などの機器も設置され、コスト460万円。立地は被災地近隣に建設され、優先入居枠もなく、隣人関係維持も配慮された。 (3)奥尻島地震(93年7月) 1K、2K、3Kの型別供給(約6割が2K、平均28.08㎡約9坪弱)で、風呂、便所、冷蔵庫・洗濯機も設置、外壁2重、コスト328万円。要援護者を優先入居したが全て島内に建設された。 (4)台湾(99年9月) 6人家族が多いことを配慮して12坪とし、団地内には診療所、ディケア、スーパー、パン工場なども有る。 (5)新潟中越地震(04年10月) 1K、2K、3Kの型別供給でかつ豪雪地仕様(耐雪2m、天井裏断熱材100mm)、エアコン1台、洗濯機置場内部、コスト400~500万円(解体費含む)。それでも多くが結露に悩まされたが、一部木質系仮設も建設され、そこでは結露していない。ペットとの同居許可や生きがいづくりの農園も整備され、集落毎の入居や当初からのディケアセンターの設置・運営もあって、コミュニティ機能を発揮したという。また民有地での仮設許可(川口市6戸)や福祉仮設住宅も設置された。 (6)能登半島地震(07年3月) 1K、2K、3Kの型別供給で、高齢者による火災発生対応としてIH(電磁調理器)が初めて設置された。ここも当初から「ふれあいセンター」が設置され、バリアフリーも対応したが、駐車場等の砂利舗装で乳母車曳けない苦情が出た。 2.応急仮設住宅建築への提言 (1)小/中学校等を核とした仮設住宅村 仮設住宅中心(=復興拠点)をつくった上で、車・バス・自転車で通える距離に「衛星仮設村」をつくるべきと考えます。 (2)長期の生活に耐えられる居住性の確保 ・断熱性 ・ 遮音 ・ 結露対策/とくに鉄骨プレファブ ・気密性/ムカデやイモリ、アリなどの侵入 ・玄関の段差 ・空調暖冷房 ・食寝分離 ・収納の不足 ・ 透明ガラスを型ガラスにしてプライバシーを守る ・ 玄関庇を長く、下駄箱の工夫 ・ 雪下ろしの対策 ・ペットとの同居 ・ (3)様々な家族形態に対応する間取りと規模 (4)毎日の生活に必要な機能で共同化した方が良いもの ・洗濯と干し場 ・ゴミ収集場 ・共同キッチン/自立できない人々のため共同化が必要 ・ユニットバスでは入浴できない人のための介護よくを備えた福祉風呂 ・共同の「いこいの広場」となる集会所 (5)プライバシーを守り、コミュニティを継続させ育む集合形態 (6)弱者にやさしい福祉の視点を大切にするきめの細かい住宅供給 (7)小規模でも生活需要に応える機能を備える仮設村ユニット 仮設的な保健・医療、教育、商業などの生活関連サービス施設を仮設住宅群とあわせ「仮設村」ユニットとしてつくっていく (8)地場産業復興のための建設 (9)復興住宅、リユースを見据えた仮設住宅計画 (10)被災住宅の応急修理の有効性(公費解体の逆効果) 大量の仮設住宅や災害公営住宅の建設に要する時間と費用よりも、応急修理の方が迅速で費用も安く、仮設住宅や災害公営住宅の戸数も軽減できる。さらに自己所有地の自力仮設住宅と同様、被災者も元のまちに住みながら、自己の生活再建やまちの復興・コミュニティに参画でき、地域活性化のインセンティブを示すことになる。 (11)災害救助法の及ばないところは住民主体の心で補う 災害救助法では、「応急仮設住宅設置のため支出できる費用には、・・一切を含む」とあるが管理費、撤去費用については別途費用とし、少しでも居住性の良い仮設住宅を実現するため、「適切な居住を確保するものでなければならない」との概括的基準をもうけること。また、憲法第25条の生存権が適用されるものでなくてはならない。 3.公的仮設住宅の入居条件と供給戸数 災害救助法の入居条件は、住家が全壊・全焼などで継続的に生活できない者に限定しており、罹災証明書の根拠となる被害認定の不適切さが問題になった。新潟中越沖地震でも同様(特に柏崎市)、仮設住宅入居に被害認定が大きなウエイトを占めた。また供給戸数は、全壊・全焼世帯数191,523だが、県防災部は居住不能世帯数130,236と置き換え、それに対して供給数48,300戸(37%)とした。そして高齢者優先入居も急を要したが、遠い郊外に敷地を求めた完成団地順に応募し、絶対的に少ない供給数のために、仮設入居完了まで10ヶ月要し、被災地域住民はバラバラにされた。 (1)適切な被害認定 公費解体棟数が「全壊認定」棟数を上回った原因として、最初に「応急危険度判定」と罹災証明に必要な「住家の被害認定」の違いが被災者には周知されず、危険度判定の赤紙を貼られた家屋は全壊と判断を誤り、公費解体を選択した例が多い。逆に全壊認定の罹災証明の方が義援金の配分などに有利との判断から、全壊として公費解体に走ったものもある。 (2)住民台帳が失われたのではないか? 対象となる住民を新たに登録しつつ、支援対象者リストを形成して行かなければならない。募集そのものが住民に対し公平に行なわれる必要がある。 また、県外流出避難者のリストも同時に記録し、衆知方法を確立しなければならない。 (3)有効な情報伝達、衆知、応募、判定の方法 4.交通手段の整備 旧市街と仮設住宅地域とをつなぐ交通手段の整備。これに寄り、地域コミュニティの断絶が最小限に抑えられ、地域づくりの気運を高めることになる。 そのためには、地域内公共交通、ミニバスを整備する必要がある。 被災者には身体以外の道具、交通手段はない。 5.公的仮設住宅の用地確保と立地 阪神淡路大震災では、復興再開発や区画整理事業区域の用地は積極的に買ったが、自己所有地に複数の仮設建設の要望など住民の協力を受け入れず、結果、地域コミュニティ維持よりも都市計画事業を優先した。神戸市内激震6区では5,161戸供給されたが、全壊・全焼戸数120,069戸に対し4.3%、当局の言う居住不能戸数76,078戸に対しても6.8%でしかなく、90数%の被災者が臨海部の“離島”や遠い郊外に追いやられた。特に高齢者等の優先入居は、隣人関係の相互扶助や「医・職・住」といった地域に潜在するソーシャルケアを寸断し、要援護者を阻害してしまった。 このような教訓から、次のような提案をする。 (1)狭小敷地も対象とし地形環境にあった居住地に近いところに用地を確保する 大量の応急仮設住宅建設のためにはどうしても広大な敷地に目が行くが、今回は山間地も多く、それを望むと居住地から遠隔地になってしまう対象が多いと考える。そのため、狭小敷地であっても対象と考え、小グループの仮設住居を積極的に建設して行く必要がある。その方が返って住民の自主性を培う可能性も多いと考える。また、地域の建設業の再興にも寄与するに違いない。 (2)現地での作業を最小限にする建設方法を考える。その方法は、ユニット方式によるが、コストはどうしても、高くなる。それぞれが独立しているためにそれぞれに外壁が必要であるからです。しかし、良い点もあります。一つでも成立するために、敷地を平らに造成しなくても立地が可能となるからです。少しでも早く、少しでも多く。この趣旨には変えられない状況が被災現場にはあるのではないでしょうか。 (3)洋上避難基地の設置。地震も収束しつつあります。洋上に大型客船を配置し、仮設村としてはいかがでしょうか。交通機関も洋上であれば容易です。 6.仮設住宅での支援体制、特に要援護者への支援 阪神淡路大震災では、数ヶ月経ってようやく「ふれあいセンター」が設置・運営された。当初100戸以上の団地で、後に50戸以上の団地に設置され、被災者の交流の場(ふれあい喫茶)、ボランティアの拠点、安否確認、診療所、相談所、生活情報提供などが取り組まれ、最大232ヵ所となった。 地震発生から全入居者仮設住宅退去まで丸5年(H12年1月14日)かかり、その間、仮設住宅での孤独死は233人に及びました。 この教訓から、今回は一般仮設住宅の建設とは別に独自に、福祉型仮設住宅村の整備を行うよう検討しなければなリません。 7.持ち家再建への支援と展望 二重ローンへの対応策を明確にする。土地の担保、生命保険の担保などリバースモーゲージの検討。高齢者へのきめ細かい対策と支援、相談窓口の開設。 これは、国の方針でも検討が必要といわれています。早急に具体化することが急務です。 また、ローンを100年で組むなどの配慮も必要です。そのためには、建設する家屋も100年以上の耐久性と居住性能がなければなりません。 8.被災者に対する情報の一元化と多様化 復旧と復興の道の中で、最も大切なことです。自立仮設住宅、半壊以下の住宅に住み続けている人々、遠方に仮設住宅を求めた人々、これらの方々に情報がこまめに届くようネットワークと在所確認の制度をつくらなくてはなりません。被災自治体では困難な場合には、支援自治体がこれに変わって活動しなければならないと考えます。また、NPOに業務委託する方法もあります。 9.リユースやまちづくり再生事業に寄与する仮設住宅のあり方 鉄骨プレファブでは難しいと思いますが、木造の場合には、仮設住宅としての使用が終了した時点での、リユースの活用が望まれます。 オートキャンプ場にするとか、グループホームなどの福祉施設、「若者元気単身村」などに改変するとかの方法が考えられます。地域の福祉、産業などに寄与する多様な発想が望まれます。
by the-road-of-japan
| 2011-04-07 03:35
| ♫緊急仮設住宅への提言
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